セミナー・労働教育

「働く人のための「労働審判制度」~労働トラブル解決に向けて~」質疑応答

オンラインセミナーの内容について受講者よりいただいたご質問に対して、セミナー講師よりご回答いただきました。(令和7年10月8日まで掲載)

回答者(講師)

弁護士 徳住 堅治 氏

【質問1】

 後半の講義の具体的事例④に労働条件の引き下げというテーマがありました。
 昨今、定年後の再雇用で役職や賃金は大幅に下がるが、実質的には現役時代と変わらない仕事をされているケースがあると思っています。
 こういった再雇用による労働条件の変化に関して、具体的事例があれば教えていただきたいです。 どうぞよろしくお願いいたします。

【回答1】

 裁判所は、定年後再雇用の際の賃金格差等を是正する姿勢に消極的であり、同一労働同一賃金の原則を認めようとしません。労働条件格差の程度についても、「名古屋自動車学校事件」最判は、40%の減額でも不合理な労働条件の相違ではないと判示し、労働者に厳しい姿勢を示しています。
*「名古屋自動車学校事件」最判(令5.7.20労判1292号5頁)
 名古屋高裁が、定年退職の前後を通じて、業務の内容・業務に伴う責任の程度、職務の内容及び配置の変更の範囲に相違がないのに、基本給・一時金の額が正職員の額の60%を下回る部分は、不合理な労働条件の相違であり、労働契約法20条違反であると判決した。ところが、最高裁は、高裁判決を取り消した。最高裁は、高裁判決は基本給の性質や支給目的を十分に踏まえず、労使交渉の事情を適切に考慮していないとして、労働契約法20条の解釈適用を誤まっていると断じました。
*「長澤運輸事件」最判(平30.6.1労判1179号34頁)
 会社を定年退職後、同社で定年後再雇用として有期雇用で勤務していた運転手の労働者が、定年前と同じ業務をしているのに、給料(年収)が定年前の正社員時に比べて約2割下がったとして、その差額の支払いを求めた事案で、定年前後で職務内容、職務内容・配置変更の範囲は同一であり、勤務手当の相違は不合理だが、職務給・住宅手当・家族手当・役付手当・賞与の相違は不合理ではないと判断しました。

【質問2】

①残業代未払い等、労働基準法違反の事案の場合、労基署に申告し、行政指導で対処して貰うのが費用・迅速性を勘案すれば優先順位が高いと思いますが、如何でしょう。
②労基署等では、先ずは、任意の書面で相手に請求せよ(内容証明でなくともよい。)と言われることが多いようです。労基署ではざっくり解決はしてくれないと思われますので、事案に拠っては労働審判、訴訟等に進むことも考えられます。就いては当該請求書面等は当初より「内容証明」で対処した方がベターでしょうか。

【回答2】

 労基署は、労働基準法に基づいて、事業場の立ち入り調査を行い、違反が摘発し、指導や是正勧告を行います。勧告に従わない場合は、労基法違反で逮捕・送検等の刑事手続をとります。ただ、労基署の役割は、労基法に基づく使用者に対する監督行政であり、個々の労働者の権利実現を直接担っていません。
 労基署の指導・是正勧告により、未払い残業代の一部支払いを受けれることはありますが、未払残業代の支払いを本格的に受けるには、労働審判・労働裁判を利用して追求する以外にありません。その際、請求の内容証明を送付することも一方法ですが、私の経験では、内容証明を送付しただけで解決した事案はありません。

【質問3】

・労働審判で、労使委員の中立性はどのように担保しているのでしょうか。
 結果として労使の審判員の意見は100%近く一致しているから正しい判断をしていると言えるのだと思いますが、労使委員の選任の時点での工夫は何かあるのでしょうか。
・公務員の場合は労働審判の対象外という理解でよろしいでしょうか。

【回答3】

・労働審判法(9条1項)で、労働審判員は労働審判委員会の一員として中立かつ公正な立場で労働審判事件を処理する為に必要な職務を行うと、定められています。労働審判委員は、労働関係に関する専門的な知識経験を有する者(9条2項)から任命するとされます。実際上は、全国的な労使団体(労は連合、使は経団連)が選定し推薦した労使実務家の中から裁判所が労使ほぼ同数で選任する方法がとられています。この選定・選任にあたっては、厚労省が委託して実施する「企業内個別労働紛争解決研修・基礎研修」を履修する必要があります。私の経験では、労働審判委員は、労使の立場を超えて、事件に真剣に立ち向かい、労働関係に関する専門的知識経験を活かして、積極的に尋問・発言され、自らの心証を形成されてる姿勢に感銘を受けることが多々ありました。
・公務員に関する事案、例えば公務員に対する懲戒処分・人事上の措置等は、労働審判の対象外です。労働審判法1条で、労働審判の対象を、「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(個別労働関係民事紛争)」と限定しており、公務員に関する事案は、申立てることができません。

【お問い合わせ先】

東京都労働相談情報センター 事業普及課 普及担当
電話:03-5211-2209
(9時~17時(土・日・祝日を除く))

ページのトップへ

お問い合わせ先

東京都労働相談情報センター 事業普及課 普及担当
電話:03-5211-2209
(9時~17時(土・日・祝日を除く))